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札幌地方裁判所 昭和49年(ワ)972号 判決

原告

中村政雄

右訴訟代理人

村部芳太郎

被告

更生会社株式会社

大丸国分屋商店管財人

加納洋一

右訴訟代理人

荒谷一衛

主文

一、原告が更生会社株式会社大丸国分屋商店に対し、金四六八万六、六九六円(内訳。元本金四四四万四、三三五円、違約損害金二四万二、三六一円)の更生債権を有することを確定する。

二、原告その余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は一〇分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

被告は原告に対し、原告が更生会社株式会社大丸国分屋商店に対し金四九五万一、二三六円(内訳元本金四四五万一、一五二円、違約損害金五〇万〇、〇八四円)の更生債権を有することを確定する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、請求の原因

一、訴外更生会社株式会社大丸国分屋商店(以下訴外会社という。)の申立にかかる当庁昭和四九年(ミ)第一号会社更生手続開始申立事件につき、当裁判所は昭和四九年七月八日午前一〇時会社更生手続開始決定をし、同日被告をその管財人に選任し、更生債権の届出期限を昭和四九年八月一〇日、同調査期日を同年九月二日午前一〇時と指定した。

二、原告は訴外会社提出にかかる、(イ)額面四〇〇万円、満期昭和四九年二月二四日、(ロ)額面一〇〇万円、満期同月二六日とする約束手形二通の所持人であるが、これを各支払期日に支払場所に支払のため呈示したが支払がなかつた。

そこで原告は右手形債権を更生債権として昭和四九年八月九日当裁判所に更生債権元本五〇〇万円、利息および損害金債権三〇万円、議決権額五三〇万円として届出たところ、被告は右債権調査期日において右届出債権額と届出議決権額全額について異議の申立をした。右債権の届出および異議は更生債権者表に記載がある。

三、しかしながら、原告は訴外会社に下記二件の賃金債権を有し、同会社はその支払のため前記約束手形を振出したものである。

(一)  第一金銭消費貸借(以下第一貸借という。)

1 原告は訴外会社に対し、昭和四八年一二月二八日金四〇〇万円を、弁済期同四九年一月二四日、利息および違約損害金月四分と定めて貸与し、その際右弁済期日までの利息として金一六万円を天引し三八四万円を交付したが、その間の利息制限法(以下「法」という。)所定の利率による利息額は四万二、六〇八円であるから過払分一一万七、三九二円が元本に充当されたこととなり、よつて元本残は三八八万二、六〇八円となつた。これが昭和四九年一月二四日現在における貸金残債権である。

2(イ) 次いで同月二四日右貸金の弁済期を同年二月二四日と変更し、その際右一月二五日から二月二四日までの間の利息として一六万円の前払をうけた。

(ロ) しかし右残元本に対する法所定の年一割五分の割合によつて計算したその間の利息額は四万九、四六三円であるから過払分一一万〇五三七円が元本に充当されたこととなりよつて元本残は三七七万二、〇七一円となつた。これが同年二月二四日現在における貸金残債権である。

(二)  第二金銭消費貸借(以下第二貸借という。)

1 原告は訴外会社に対し、昭和四八年一〇月一九日金一〇〇万円を、弁済期間同月三一日、利息および違約損害金月五分ないし八分と定めて貸与し、その際その間の利息として五万円を天引し九五万円を交付したが、その間の法所定の利率による利息額は五、六二一円であるから過払分四万四、三七九円が元本に充当されたこととなり、よつて元本残は九五万五、六二一円となつた。これが同月三一日現在における貸金残債権である。

2(イ) 次いで同月三一日右貸金の弁済期を同年一一月三〇日と変更し、その際同月一日から同月三〇日までの間の利息として八万円の前払をうけた。

(ロ) しかし右残元本に対する法所定の年一割八分の割合によつて計算したその間の利息額は一万四、一三〇円であるから過払分六万五、八七〇円が元本に充当されたこととなり、よつて元本残は八八万九、七五一円となつた。これが同年一一月三〇日現在における貸金残債権である。

3(イ) 次いで同年一一月三〇日右貸金の弁済期を同年一二月二八日に変更しその際同月一日から同月二八日までの間の利息として八万六、〇〇〇円の前払をうけた。

(ロ) しかし右残元本に対する右年一割八分の割合によつて計算したその間の利息額は一万二、二六四円であるから過払分七万三、七三六円が元本に充当されたことになり、よつて元本残は八一万六、〇一五円となつた。これが同年一二月二八日現在における貸金残債権である。

4(イ) 次いで同年一二月二八日右貸金の弁済期日を昭和四九年一月二六日と変更し、その際右一二月二九日から一月二六日までの間の利息として八万円の前払をうけた。

(ロ) しかし右残元本に対する右年一割八分の割合によつて計算したその間の利息額は一万一、六五八円であるから過払分六万八、三四二円が元本に充当されたことになり、よつて元本残は七四万七、六七三円となつた。これが昭和四九年一月二六日現在における貸金残債権である。

5(イ) 次いで同年一月二六日右貸金の弁済期を同年二月二六日に変更し、その際右一月二七日から二月二六日までの間の利息として八万円の前払をうけた。

(ロ) しかし右残元本に対する右年一割八分の割合によつて計算したその間の利息額は一万一、四〇八円であるから、過払分六万八、五九二円か元本に充当されたことになり、よつて元本残は六七万九、〇八一円となつた。これが同年二月二六日現在における貸金残債権である。

四、以上のとおり、原告は訴外会社に対し、貸金残元本合計四四五万一、一五二円のほか、第一貸借の残元本三七七万二、〇七一円に対する弁済期の翌日である昭和四九年二月二五日から前記更生手続開始日の前日である同年七月七日まで(一三三日間)の利息制限法所定の年三割の割合による違約損害金四一万二、三四四円、第二貸借の残元本六七万九、〇八一円に対する弁済期日の翌日である同年二月二七日から右七月七日まで(一三一日間)の利息制限法所定の年三割六分の割合による違約損害金八万七、七四〇円、以上総計四九五万一、二三六円の債権を有し、これが原告の訴外会社に対する更生債権である。よつてその確認を求める。

第三、答弁

一、請求原因一、二項の事実は認める。

二、同三項中前文の事実、(一)の1のうち違約損害金の点を除くその余の事実、(一)の2の(イ)の事実、(二)の1のうち違約損害金の点を除くその余の事実、(二)の2ないし5の各(イ)の事実は認め、その余は争う。

三、(一) 第一貸借中2の(イ)の一六万円は利息の天引と同断であるから法律二条を準用するのが法の趣旨に合致し、これによれば昭和四九年一月二四日現在における残元本三八八万二、六〇八円から前払利息一六万円を控除した三七二万二、六〇八円を基礎とし、これに法所定の年一割五分の制限利率を乗じてえた四万七、四二五円が原告主張の期間の利息額となり、よつて過払分一一万二、五七五円が元本に充当され、元本残は三七七万〇、〇三三円となる。これが昭和四九年二月二四日現在における残債権である。

(二) 第二貸借の2以下の場合も右の理論によるべく、よつて2については昭和四八年一〇月三一日現在の残元本九五万五、六二一円から前払利息八万円を控除した八七万五、六二一円を基礎とし、これに法所定の年一割八分の制限利率を乗ずれば主張の期間の利息額は一万二、九五四円となり、過払分六万七、〇四六円が元本に充当され、元本残は八八万八、五七五円となる。これが同年一一月三〇日現在の貸金残である。

3については右残元本から前払利息八万六、〇〇〇円を控除した八〇万二、五七五円を基礎とし、これに右利率を乗ずれば主張の期間の利息額は一万一、〇八二円となり、過払分七万四、九一八円が元本に充当され、元本残は八一万三、六五七円となる。これが同年一二月二八日現在の貸金残である。

4については右残元本から前払利息八万円を控除した七三万三、六五七円を基礎とし、これに右利率を乗ずれば主張の期間の利息額は一万〇、四九二円となり、過払分六万九、五〇八円が元本に充当され、元本残は七四万四、一四九円となる。これが昭和四九年一月二六日現在の貸金残である。

5については右残元本から前払利息八万円を控除した六六万四、一四九円を基礎とし、これに右利率を乗ずれば主張の期間の利息額は一万〇、一五三円となり、過払分六万九、八四七円が元本に充当され、残元本は六七万四、三〇二円となる。これが同年二月二六日現在の貸金残である。

(三) 原告は第一貸借の残元本に対する昭和四九年二月二五日から同年七月七日までの年三割の割合による違約損害金債権および第二貸借の残元本に対する同年二月二七日から同年七且七日までの年三割六分の割合による同旨の債権を有する旨主張するが、右いずれについても違約損害金の特約はなく、第一貸借の利息の利率が年一割五分、第二貸借のそれが年一割八分に減縮されるのであるから、民法第四一九条第一項但書の法意に照らし、それぞれの損害金も右割合によつて算定されるべきものである(最高裁昭四三・七・一七大法廷判決)。

第四、証拠〈略〉

理由

一請求原因一、二項の事実、三項中前文の事実、同(一)および(二)の各1のうち違約損害金の点を除くその余の事実、同(一)の2の(イ)、同(二)の2ないし5の各(イ)の事実は当事者間に争いがない。

二第一貸借の利息の約定が月四分、第二貸借のそれが月五分ないし八分であることは当事者間に争いがないのであるが、法第一条第一項により、前者の利率は年一割五分、後者のそれは年一割八分に減縮されることになることはいうまでもない。

さて、本件各金銭消費貸借のそれぞれの弁済期限の変更(延伸)の際に授受された前払利息のうち貸主たる原告に帰属すべき利息額および元本に充当されるべき金額の計算方法について当事者間に争いがあるのでこの点について判断する。

右についての当裁判所の見解は次のとおりである。

利息の天引は、それが期限の利益の放棄または特約によつて行なわれるのであるが、いずれにしても利息の前払であることにその本質が存する。法第二条は、利息の天引が行なわれた場合において天引額が同条所定の方法によつて計算した金額をこえるときはその超過部分が元本に充当されたものとみなすのであるが、その法意は、高利金融市場において経済的弱者の立場にある借主保護の目的から前払利息のうち一定の限度をこえる部分については利息の支払とは認めず元本充当として取扱うことが至当であり、そしてその一定の限度の金額の求め方としては同条に定める方法によることが政策的見地から適切妥当であり、これによつて計算された一定の限度の金額をもつて貸主に帰属させるべき適正利潤とするにあるものと解する。

そうであるとすれば、同条は金銭消費貸借成立時になされる利息の前払についてのみ適用されるとする理由はなく、本件のように弁済期限の変更(延伸)の際に授受される利息の前払についても準用されると解するのが相当である。

三してみれば、第一貸借については、当初の弁済期である昭和四九年一月二四日現在における残元本が三八八万二、六〇八円であることおよび同日その弁済期限を同年二月二四日と変更しその際右一月二五日から二月二四日までの間の前払利息として一六万円が授受されたことは当事者間に争いがないのであるから、右残元本から右一六万円を引いた額を基準としこれに適用される制限利率年一割五分の割合を乗じて右期間の金額を算出し、その額を原告に帰属すべき利息額とし、その額と右前払額との差額が右残元本に充当されたとみなすべきである。するとその最終弁済期限である昭和四九年二月二四日現在における残債権は元本のみ三七七万〇、〇三三円となることが計算上明らかである。

第二貸借についても同様にして、まづ当事者間に争いのない当初の弁済期日である昭和四八年一〇月三一日現在の残元本九五万五、六二一円から第一回目の期日延伸に際し授受された前払利息を引いた額を基準としこれに適用される制限利率を乗じて延伸期間の金額を算出し、その額を原告に帰属すべき利息額とし、その額と右前払額との差額が右残元本に充当されたとみなし、次いで右充当後の残元本額から第二回目の期日延伸に際し授受された前払利息額を引いた額を基準としこれに適用される利率を乗じて延伸期間の金額を求め、その額と前払利息額との差額が元本に充当されたとみなし、第三回目以降も右の方法によつて順次計算すべきである。そして第一回目である昭和四八年一〇月三一日になされた返済期日の延伸に際し授受のあつた前払利息が金八万円(期間、同年一一月一日から同月三〇日まで)、第二回目である同年一一月三〇日になされた同延伸に際し授受のあつた前払利息が八万六、〇〇〇円(期間同年一二月一日から同月二八日まで)、第三回目である同年一二月二八日になされた同延伸に際し授受のあつた前払利息が八万円(同月二九日から昭和四九年一月二六日まで)、第四回目である昭和四九年一月二六日になされた同延伸に際し授受のあつた前払利息が八万円(同月二七日から同年二月二六日まで)であることは当事者間に争いがなく、適用すべき制限利率はいずれの場合にあつても年一割八分であることが明らかであるから、これらをあてはめて計算すれば、第二貸借の最終弁済期限である昭和四九年二月二六日現在における残債権は元本のみ六七万四、三〇二円となることが計算上明らかである。

四次に原告は、第一貸借につき月利四分、第二貸借につき月利五分ないし八分とする遅延損害金の特約がある旨主張するがこれを認めるに足りる証拠はない。

ところで右貸借の利息の約定が法所定の制限をこえているところ第一貸借についての利息は年一割五分、第二貸借についてのそれは年一割八分の利率にまで減縮されるものであることはすでに述べたとおりであるが、かかる場合違約(遅延)損害金は右それぞれの利息と同率に減縮されると解すべきである(最高裁昭和四三・七・一七判決)。

してみると第一貸借について残元本三七七万〇、〇三三円に対する弁済期日の翌日である昭和四九年二月二五日から更生手続開始日の前である同年七月七日までの間の年一割五分の割合による違約損害金の額が二〇万六、〇六〇円、第二貸借については残元本六七万四、三〇二円に対する弁済期日の翌日である同年二月二七日から右七月七日までの間の年一割八分の割合による違約損害金の額が三万六、三〇一円となることが計算上明らかである。

五よつて原告の本訴請求は、右残元本計四四四万四、三三五円および違約損害金計二四万二、三六一円、総計四六八万六、六九六円の範囲において理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(藤原昇治)

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